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日本の外食産業の海外展開をドライブするグローバル人材

日本の外食産業が抱える課題

コロナ禍における厳しい営業自粛、行動制限は外食産業に大きな影響を及ぼしましたが、2023年5月に新型コロナウイルスが感染法上の5類に引き下げられ、外食産業にも活況が戻ってきました。日本フードサービス協会の「外食産業市場動向調査 2023」によれば、2023年は、年間を通して需要の回復基調が継続したことで、外食産業の全体売上は前年比 114.1%、2019年比で107.7%となったと報告されています。また、2023年4 月の水際措置撤廃以降、訪⽇外客数は右肩上がりで急回復を遂げ、インバウンド需要が拡大したことも、外食産業の売上増の一因となっています。

しかしながら、売上増の要因としては、「客単価の上昇」によるところが大きく、「客数」は依然としてコロナ前の水準には戻っていません。特に「ファーストフード」を除く業態の多くでは、売上げ水準自体もコロナ前を回復できない状況が続いています。この背景として、国内の外食産業が抱える、次のような様々な課題があります。

(1) 縮小するマーケット

国立社会保障・人口問題研究所が2023年に発表した「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によると、総人口は、令和2(2020)年国勢調査による1億 2,615 万人が 2070 年には 8,700 万人に減少すると推測されています。また、総人口に占める 65 歳以上人口の割合(高齢化率)は、2020 年の 28.6%から 2070 年には 38.7%へと上昇し、将来的に日本の胃袋は少なくなるだけではなく、小さくなることが懸念されています。

(2) 異業種との競合

その少なく、小さくなった国内マーケットを取り合うのは外食産業の同業他社だけではありません。スーパーの総菜部門やコンビニエンスストア、いわゆる「デパ地下」の看板店舗のような総菜専門店チェーンや弁当販売店、宅配ビジネスなどといった「中食」産業との競争も激しくなっています。特に、高齢単身世帯が増えると見込まれる中で、「中食」市場へとシフトが進むことが懸念されます。

(3) 慢性的な人手不足

コロナ禍の営業自粛で離れた従業員が戻ってこず、人手不足倒産するところも出るなど、外食産業の人手不足は深刻な問題になっています。2024年の春闘では非正規雇用者についても大幅な賃上げが見られ、人手を確保するためには人件費を大きく増やさざるをえない状況になっています。

(4) 原材料価格の上昇

ロシアによるウクライナ侵攻を契機にエネルギー価格が上昇したことに加え、2022年から続いた円安により、電気・ガスなどの光熱費や輸入食材の調達コストが大幅に上昇しました。その一部を価格転嫁し売上高は上昇しましたが、競争環境が厳しい中でコスト増のすべてを転嫁することは難しく、利益率は低下、経営を圧迫する状況になっている企業も多くみられます。

海外進出の加速によるマーケットの拡大

こうした課題への対応策の1つとして、海外進出に活路を見出す外食企業が増えています。アジアや中南米の各国は今後も人口や所得の増加が見込まれ、外食マーケットも拡大していくことが期待されます。また、日本食人気も相まって、日本の外食産業にとって、海外市場は国内市場の縮小を補う有望な市場となっています。

コロナ禍が明け、ようやく売り上げが回復してきた日本の外食大手企業は、積極的にアジア各国やブラジルなどの中南米地域に出店しています。2023年に農林水産省が発表した「海外における日本食レストラン数の調査結果(令和5年)」でもアジアの店舗数は2021年から2023年の2年間でも2割増、中南米では約2倍となっています。

円安によるコスト上昇の課題に対しても、海外店舗では、食材の調達とサービス提供を現地で行うため為替の影響を受けにくく、一方、海外での連結利益は円安による増益効果が得られるため、大手外食企業の収益を伸ばす要因の1つとなっています。このため、海外での活路を見出した大手外食企業は、海外でのマーケット拡大に積極的に取り組んでいます。

海外進出を支えるグローバル人材

外食企業が海外に進出するにあたっては、(1)海外事業戦略を立案する人材、(2)現地法人の経営者となる人材、(3)地域の特性に応じた商品開発・マーケティングを行う人材などが必要となります。

(1)海外事業戦略を立案する人材

その料理が現地に受け入れられるのか、進出にあたっては現地企業の買収か直営か、材料の調達をどのようにしたら良いか、といった様々な経営環境を調査し、事業戦略を立案できる人材が必要とされます。もちろん企業には海外進出のノウハウは蓄積されていますが、これまでに出店したことが無い地域により早く進出しようと考えたときに、外食事業を理解し、各地域のマーケットを把握している外部人材を求める企業は増えてきています。特にその地域の仕入れに関わるネットワークを持つ人材を企業は探しています。

(2) 現地法人の経営者となる人材

海外進出を決定した場合、現地法人の経営者として、ローカルスタッフを取りまとめ、現地での食に関する文化やトレンドを踏まえて柔軟に取り入れ、収益を上げていくことのできる人材が必要となります。(1)でご紹介した海外への進出計画を立案した優秀な人材が、現地法人の立ち上げ後に、経営者として地域の経営を任されるケースも多くみられます。

(3) 地域の特性に応じた商品開発・マーケティングを行う人材

海外店舗の立ち上げが決まると商品開発や宣伝・PRを担うマーケターといった専門職が活躍します。商品開発職は日本の商品をそのまま現地で提供するのか、もしくは現地の嗜好にあわせてローカライズするかといった味のアプローチだけではなく、材料の調達コストを踏まえた開発力が期待されます。商品開発職には、企業での商品開発経験者だけではなく、店舗経営の経験がある調理師も採用されています。そして、宣伝・PR職には商品をその地で普及させるための知見が求められます。私が担当した案件になりますが、外食産業ご出身者ではなく、B to Cの領域でグローバル・マーケティングのスペシャリストが現在アジアマーケットを中心に活躍されています。

グローバル人材の獲得競争

宣伝・PR以外の領域は、やはり外食産業ご出身のグローバル人材が海外進出のキーパーソンとなるため、外食企業の海外進出加速に伴い、グローバルでの活躍を期待される人材獲得競争が激しくなってきています。

このため、直近では獲得コストが大幅にあがり、最低金額でも従来の1.2~1.3倍の年収が提示されるようになりました。赴任先地域にもよりますが、年収の上昇は否めず、今後さらに人材獲得は難しくなっていくでしょう。

この記事の担当コンサルタント

エグゼクティブ サービス業界

住岡 裕一

大阪エグゼクティブディビジョン 大阪エグゼクティブ第2チーム シニアプリンシパル

関⻄圏を中心に⼤手からベンチャーまで幅広い企業を対象に有為⼈材のサーチに従事。
製造業、IT、⾦融、コンサル、サービスチームのマネージャーを経て、コンシューマーグッズ&サービス部門及びエグゼクティブ部門の部⻑を歴任。
2023年7⽉よりシニアプリンシパルとして経営幹部のサーチに専念。
執⾏役員、CXO、社外を含む取締役など経営ボードメンバーのサーチを専門とする。

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