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中途採用権者(採用側)600人、会社員(人材側)1,000人に聞く、日本の「ジョブ型雇用」の実態と課題

日本におけるジョブ型雇用の普及に賛成か反対か

総務省「就業構造基本調査」によると、2022年の日本の転職就業者は1,246万人で、2017年に比べ約19万人増加しています。
転職が当たり前となる今、世界11ヵ国で人材紹介事業を展開する業界大手の株式会社ジェイ エイ シー リクルートメント(代表取締役会長兼社長:田崎ひろみ、以下JAC)は、大転職時代における転職・雇用への意識や実態を人材紹介会社として調査・発信することを目的に「JACリサーチ」をスタートしました。第1回調査レポートとして、中途採用権者(採用側)600人、会社員(人材側)1,000人に聞く、「ジョブ型雇用の今」を発表します。また、調査結果について当社コンサルタント2名が解説します。

※総務省統計局 令和4年就業構造基本調査

「ジョブ型雇用の今」調査総括

  • 採用側も人材側も日本でのジョブ型雇用の普及に「賛成」する人が多数派であるにもかかわらず、実態は伴っていないと感じている。
  • 懸念点として、採用側も人材側も、「採用や評価の制度を構築するのが難しい」「評価が難しい」を挙げ、ジョブ型雇用の普及には、ジョブごとのグレードに応じた業務内容の明確化や適切な報酬水準、評価方法などの制度設計が現状では難しく、評価する制度運用にも課題がある。
  • 終身雇用制度の下でゼネラリスト育成の方針がとられてきたことから、人材側には自らのスキルがジョブ型雇用に見合うかの不安がある。

【「ジョブ型雇用の今」調査概要】

■実施時期:2024年5月30日(木)〜5月31日(金)
■調査方法:インターネット調査
■調査対象:
①会社員(人材側)…正社員として働く20代〜60代男女1,000人
②中途採用権者(採用側)…勤務先で中途採用を担当する男女600人  
※本調査は小数点第2位以下を四捨五入しているため、合計が100%にならない場合があります。

「ジョブ型雇用」に採用側73.7%、人材側63.8%が賛成も、評価報酬制度やスキルの実態に課題

  • 日本でのジョブ型雇用の普及に「賛成」の割合は、中途採用権者(採用側)で73.7%、会社員(人材側)では63.8%と、採用側も人材側もジョブ型雇用普及に賛成する人が多数派。
  • ジョブ型雇用を導入・検討している会社は過半数を超え、従業員数の多い企業ほどジョブ型雇用を経営の視野に入れる。
  • 一方で、採用側の69.5%、人材側の67.0%が「日本においてはジョブ型雇用へシフトという号令だけで、実態が伴っていない」と課題を感じている。
  • 採用側からの懸念として「採用や評価の制度を構築するのが難しい」(30.4%)、「従業員のスキルや成果を正しく評価できるか疑わしい」(22.8%)が挙げられる。人材側の懸念としては、「正しく成果を評価してもらえるとは限らない」(29.6%)が挙げられる。40代では「「スキルや専門力を身に付ける自信がない」が高率。

人材側はまずはスキルの棚卸しを。評価制度構築・運用は人材紹介企業への依頼も視野に

  • 40代の人材がジョブ型雇用への不安が強いのは、即戦力としての能力を問われる年代でありながら、自身のスキルや専門力の客観的評価を知らないから。ポテンシャルが高い人も多いため、転職するしないにかかわらず、まずは自身のスキルの棚卸しを。
  • 調査結果から、ジョブ型雇用における懸念は採用側も人材側も評価制度の構築と運用にあることは明らかだが、両者が納得できる制度構築のために、第三者の観点からの知見を取り入れることも解決策のひとつ。

日本の「ジョブ型雇用」の実態と評価

ジョブ型雇用とは、職務内容と求めるスキルを限定して採用する雇用形態です。2020年3月の経団連の発表では、ジョブ型雇用について「特定のポストに空きが生じた際にその職務(ジョブ)・役割を遂行できる能力や資格のある人材を社外から獲得、あるいは社内で公募する雇用形態のこと」としています。欧米では主流のジョブ型雇用ですが、日本では長年、採用後に職務を割り当てる「メンバーシップ型雇用」を選択していました。しかし、専門性の高い職種が増えたことやコロナ禍の影響でリモートワークが普及したことなどから、日本でもジョブ型雇用への注目が高まりつつあります。そこで今回は、ジョブ型雇用の企業への導入実態、および普及への中途採用権者(採用側)と会社員(人材側)の評価について調査しました。

※経団連の発表:「採用と大学教育の未来に関する 産学協議会・報告書『Society 5.0 に向けた大学教育と採用に関する考え方』」

日本でのジョブ型雇用の普及に「賛成」の人は、中途採用権者(採用側)73.7%、会社員(人材側)63.8%と、多くの人がジョブ型雇用普及に賛成。

日本におけるジョブ型雇用の普及について賛成か反対か意見を聞いたところ、中途採用権者(採用側、以下同)の73.7%、会社員(人材側、以下同)でも63.8%が「賛成」と回答しています[グラフ1]。採用側も人材側も、ジョブ型雇用の普及に賛成する人が大多数を占めています。

[グラフ1]日本におけるジョブ型雇用の普及に賛成か、反対か
[グラフ1]日本におけるジョブ型雇用の普及に賛成か、反対か

ジョブ型雇用を導入・検討している会社は53.5%。従業員数1,000人以上の大企業では約3割
が導入済み、導入検討と合わせ74.5%もがジョブ型雇用を経営の視野に入れている。

採用側600人に自社でのジョブ型雇用の導入予定を聞くと、19.8%が「既に導入」、33.7%が「導入を検討」と答え、合わせて53.5%がジョブ型雇用を導入・検討しています。
中でも、従業員数1,000人以上の大企業では、29.5%が「既に導入」、45.0%が「導入を検討」としており、74.5%が導入・検討を行っています[グラフ2] 。

[グラフ2]自社のジョブ型雇用導入状況
[グラフ2]自社のジョブ型雇用導入状況

一方で、採用側の69.5%、人材側の67.0%が「日本においてはジョブ型雇用へシフトという号令だけで、実態が伴っていない」(69.5%)と課題も感じている。

ジョブ型雇用についての見解を聞くと、採用側は「ジョブ型雇用の推進がグローバル社会では必要」(69.8%)と推進を肯定する姿勢を示す一方、「日本においてはジョブ型雇用へシフトという号令だけで実態が伴っていない」(69.5%)と感じています。人材側も 「日本においてはジョブ型雇用へシフトという号令だけで実態が伴っていない」(67.0%)と感じ、「ジョブ型雇用を適用する場合、人材育成方針を見直す必要がある」(66.9%)と考えています[表1]。

[表1]ジョブ型雇用に対する見解TOP10(複数回答)
[表1]ジョブ型雇用に対する見解TOP10(複数回答)
[表1]ジョブ型雇用に対する見解TOP10(複数回答)
(スコアは「そう思う」の回答率)

「ジョブ型雇用」に対する期待

採用側が自社にジョブ型雇用を導入・検討する理由は、「成果に即した評価をしたい」、「従業員のスキルや専門性を高めたい」、「戦略的に採用したい」から。日本でのジョブ型雇用の普及に賛成する理由としても「即戦力を採用しやすくなる」をトップに挙げ、ジョブ型雇用の人材採用上の効果に大きな期待。

自社にジョブ型雇用を既に導入、または導入を検討している採用側にその理由を聞いたところ、「より成果に即した評価をしたいから」(49.5%)、「従業員のスキルや専門力を高めたいから」(48.6%)、「戦略的に人材を採用したいから」(44.9%)などが上位に挙げられました[グラフ3]。日本におけるジョブ型雇用の普及に「賛成」と答えた理由としても、採用側は「即戦力人材を採用しやすくなるから」(50.7%)、「より柔軟・戦略的な人材採用ができる」(43.2%)などを挙げています[グラフ4]。

[グラフ3]自社にジョブ型雇用を導入・検討する理由(複数回答)
[グラフ3]自社にジョブ型雇用を導入・検討する理由(複数回答)

いずれにおいても人材採用上の効果に期待しており、労働人口が減少し、人材不足が深刻となる中で、企業にとってジョブ型雇用が必要となっていくことがうかがわれます。

[グラフ4]採用側が日本でのジョブ型雇用普及に「賛成」する理由(複数回答)
[グラフ4]採用側が日本でのジョブ型雇用普及に「賛成」する理由(複数回答)

人材側が日本でのジョブ型雇用普及に賛成する理由は、「専門性を高めるモチベーションになる」から。

続いて人材側にジョブ型雇用の普及に「賛成」する理由を聞くと、「専門力アップやスキルアップを図るモチベーションになる」(39.3%)、「働く人が専門力やスキルを磨き、競争力を高めることのできる制度だから」(37.9%)などが上位に挙げられました。年代別では40代で「年齢等を問わず評価され、高い報酬を得る人が増えるから」等、多くの項目が理由となっています。

[グラフ5]人材側が日本でのジョブ型雇用普及に「賛成」する理由(複数回答)
[グラフ5]人材側が日本でのジョブ型雇用普及に「賛成」する理由(複数回答)

日本における「ジョブ型雇用」の普及への課題と展望

採用側が日本でのジョブ型雇用の普及に反対するのは「採用や評価の制度を構築するのが難しいから」。従業員規模が小さいほど顕著。

日本におけるジョブ型雇用の普及に「反対」と答えた採用側は、その理由として「採用や評価の制度を構築するのが難しいから」(30.4%)、「日本に多い中小企業にとって不利だから」(24.1%)、「従業員のスキルや成果を正しく評価できるか疑わしいから」「ジョブがなくなった場合でも異動・減給・降格・解雇がしにくいから」(同率22.8%)などを挙げています。「採用や評価の制度を構築するのが難しいから」、 「日本に多い中小企業にとって不利だから」は従業員数が小さいほど高率です[グラフ6]。

[グラフ6]採用側が日本でのジョブ型雇用普及に「反対」する理由(複数回答)
[グラフ6]採用側が日本でのジョブ型雇用普及に「反対」する理由(複数回答)

人材側が日本でのジョブ型雇用普及に反対する理由は「正しく評価されるとは限らないから」。40代で「スキルや専門力を身に付ける自信がない」が高率。

一方で、人材側の「反対」の理由は、「正しく成果を評価してもらえるとは限らない」(29.6%)、「年齢が上がるとそれ以上のスキルアップが大変そう」(24.3%)、「実質上の給与削減策として利用されそう」(22.7%)が挙げられました。年代別では40代の「通用するスキルや専門力を身に付ける自信がないから」(31.4%)などが高率です[グラフ7]。

[グラフ7]人材側がジョブ型雇用の普及に「反対」する理由(複数回答)
[グラフ7]人材側がジョブ型雇用の普及に「反対」する理由(複数回答)

総括

採用側も人材側も日本でのジョブ型雇用の普及に「賛成」する人が多数派であるにもかかわらず、「号令だけで実態が伴っていない」と感じている背景には、採用側も人材側も共通して「採用や評価の制度を構築するのが難しい」「評価が難しい」ことへの懸念がある。ジョブ型雇用の普及には、ジョブ型雇用の採用や評価の制度の構築や実際の運用が課題であることが分かる。

また、終身雇用制度の下でゼネラリスト育成の方針がとられてきたことから、人材側には自らのスキルがジョブ型雇用に見合うかの不安もあり、これからは企業も人材側も、これらの課題へ向き合うことが必要であると推測される。

コンサルタントによる調査への見解

今回の調査結果について、ジェイ エイ シー リクルートメントのコンサルタントは下記のような見解を述べています。

■コーポレートサービス第2ディビジョン 部長  水上 悠一

40代の人材がジョブ型雇用を評価しつつも不安も強いのは、即戦力としての能力を問われる年代でありながら、自身のスキルや専門力の客観的評価を知らないから。

人材側が日本でのジョブ型雇用の普及に「賛成」する理由は、年代別でみると全体的に40代のスコアが高く、特に「年齢等を問わず評価され、高い報酬を得る人が増えるから」が38.5%と他の年代と比べ高い数字となっています[グラフ5]。一方で、反対する理由は、「通用するスキルや専門力を身につける自信がないから」が40代で31.4%となり、他の年代と比べ高率です[グラフ7]。

私が日々転職のご相談を受けるなかでも、40代の転職者がジョブ型雇用の職場を評価しつつも、不安があることも多いと感じており、この結果は意外ではありませんでした。

40代で転職をする場合、その多くは即戦力を求める企業への応募となるため、スキルマッチを慎重に確認させていただいています。しかしながら、日本企業の多くが労働条件を限定しないメンバーシップ型を採用しているため、初めて転職する際に、自身の専門分野を特定できない場合があります。ちなみに今回の調査でも、「自分がジョブ型雇用の対象になるか」という質問に対しては、7割近くが「自分はジョブ型雇用の対象外」と回答しています[グラフ8]。

[グラフ8]人材側は自身をジョブ型雇用の対象になると考えているか
[グラフ8]人材側は自身をジョブ型雇用の対象になると考えているか

ところが、転職希望者の方々のお話を伺うと、実際は得意分野をお持ちでありながら、それを専門分野と言ってもいいのか自信を持てずにいるケースが多くみられます。

勤務先にジョブ型雇用が導入される可能性もある今、転職するしないにかかわらず、自身のスキルの棚卸しを日頃から心がけておくことはどの年代にとっても重要。

ジョブ型雇用に対する人材側の懸念として浮き彫りになった「通用するスキルや専門力を身につける自信がないから」という点に対しては、まずは自分のスキルの棚卸しをしてみることをお薦めします。転職する場合に限らず、現在所属している企業でジョブ型雇用が導入されるケースもあると思います。その際にも自身の専門分野を把握していれば、不安なくスムーズに移行していくことができると考えます。

■IMSディビジョン マネージャー 重本 明宏

調査結果でも明らかなように、ジョブ型雇用における懸念は採用側も人材側も評価制度。JACでも企業から制度設計の相談を受けることも。

日本でのジョブ型雇用の普及を反対する理由の1位は、人材側は「正しく成果を評価してもらえるとは限らないから」[グラフ7]、採用側は「採用や評価の制度を構築するのが難しいから」[グラフ6]と、どちらも評価制度についての不安が挙がっています。

私はプロフェッショナル人材の業務委託サービス(IMS事業)を担当していますが、私のお客さまであるジョブ型雇用の導入検討企業からも、専門性の高い人材を確保・採用するための制度設計等に関するご相談を受けることがあります。

業界内外の専門職種に関する処遇データを参照、各業界・職種の専門家の第三者観点と知見を取り入れ、評価制度を構築。人材側の報酬・モチベーションアップや、採用側の効率的な人材採用を実現。

例えば、ある企業では、市場希少性の高い専門職種の人材について、旧来のメンバーシップ型の評価制度では専門分野に関する内容を評価できないため、新たな人事制度の導入を検討されていました。しかし、明確な評価指標の策定が難しく、昇進等の条件を従業員側と共有できない場合、モチベーションが低下し離職してしまうことが懸念されていました。

そこで、我々JACグループが保有する業界内外の専門職種に関する処遇データを参照し、専門職種に限定した等級要件の定義や報酬テーブル、評価制度の構築を提案しました。また、市場の希少性が高い職種のため、等級要件の定義にはIMSに登録をされる各業界・職種の専門家の第三者観点、知見を取り入れ、導入にあたっては、専門家が面談して各人材のスキルアセスメントを行い、第三者観点で処遇の妥当性等の評価を実施しました。

これによって、これまでの人事制度での処遇より年収が上がる結果につながったり、次の昇格に必要な要件が明確化されたことで、不足するスキルを補うモチベーションアップにつながったり、リテンション(離職回避)につながる施策になったと評価をいただいています。専門性の定義が明確化されることで、採用の際にも必要とされるスキルを持つ人材にたどり着きやすくなるといった効果も生まれています。

長年メンバーシップ型の人事制度を採用してきた日本企業において、ジョブ型雇用を導入・運用していくためには、従来の社内の基準だけではなく、マーケットでの当該ジョブのスキルの定義や報酬水準を勘案して、企業側も従業員側も納得できる制度設計を行っていくことが重要な要素の一つになると考えます。

調査報告書

調査報告書はこちらからダウンロードできます。

この記事の担当コンサルタント

バックオフィス

水上 悠一

コーポレートサービス第2ディビジョン 部長

日系中堅~小規模企業、IPOフェーズ企業の管理部門全般を網羅しており、特に管理職クラスや専門性の高いポジションの採用/転職支援の経験が豊富。 実際の面談や商談も行い、日々マーケットの動きをキャッチアップしている。求職者、クライアントと直接対話することによって、求職者のコアキャリアと今後キャリア形成を踏まえた求人のご紹介、クライアントの経営課題の解決につながるご紹介を心掛けている。

HR / エネルギー・サステナビリティ

重本 明宏

IMSディビジョン HR・GXソリューションズチーム マネージャー

日系重電メーカーでの工場人事の経験を基に、当社にて約10年間、製造業、エネルギー業界向けを中心とした人材紹介・採用コンサルタントを担う。外資製造業チームのマネージャーを経験の後、経営企画部へ異動。副業人材・フリーランスの業務委託サービスの立上げを担う。以降、現職にてエネルギー業界を中心に、事業開発他のHR(採用、制度設計、人材・組織開発等)、サステナビリティに関わる案件を得意とし、約100件の副業、フリーランス活用事例を創出。

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