
JACの海外拠点で預かる求人のなかでも、「法人営業」のポジションは常に大きな割合を占める。多くの場合、その対象はその国の商慣習を熟知したナショナルスタッフ(=その国の出身者)だが、求められる要件はその時々の経済環境や移民政策などによって変化する。JACの拠点があるアジア7ヵ国について、最新の動向をまとめた。

韓国
韓国は韓国企業がクライアントとなるので、求人の多くはナショナルスタッフを対象としたものであるが、国内の景気が戻らず、全体的に求人数も減っている。特に半導体業界の回復が遅いように感じられる。
一方で、バイオ産業や、世界の電気自動車(EV)市場の急拡大と韓国メーカーの高い競争力による二次電池業界の成長に伴い、採用ニーズが高まっている。いずれも業界経験者であることなど、求めるレベルも高まっているが、景気の影響等で給与額など候補者と目線が合わなくなっており、優秀な人材は現職に留まる傾向が強まり、採用は容易ではない。給与だけではなく、柔軟な勤務地の対応、出張頻度を減らすなど、様々な面で待遇を上げていく必要がある。
これまで日系企業からの求人は、日本語話者のナショナルスタッフを対象としたものが多かったが、最近は韓国を拠点としてアジア全域を担当する求人が増加傾向にあり、中国語話者などのニーズも増えてきている。
インド
ナショナルスタッフの採用状況としては、候補者はいるものの、「日系企業で働いたことがある」「ネットワークがある」「商習慣に対応する能力に長けている」といった条件はどこの企業も求めているため、条件を満たす候補者は取り合いとなっている。採用する上ではスピード感を持った判断と現職の20~30%以上の給与の提示などが必要である。
インドの自動車市場で高いシェアを持つ日系企業がさらなるシェア拡大のため工場の建設等を進めており、それに伴い自動車部品の営業、切削機器や工作機械の商社や販売会社の営業やサービスエンジニアのニーズが高まっている。また、外資企業がインド進出にあたっては会計事務所を必要とすることが多く、これらの自動車関連企業の進出に向けて、日系、ローカルを問わず会計事務所から日本人営業の求人が多く出ている。
ビザを取得しやすいこともあり、海外で働きたい、英語を使って仕事をしたいと考える日本人にとってインドは魅力的だが、商習慣がインド独特のこともあり、いわゆる営業のポータブルスキルだけでは難しい。これまでに述べた通り様々な業界で日本人向けの求人が出ており、幅広く業界を選べる売り手市場であることは間違いないが、給与額や企業のブランドで選んでしまう求職者もおり、ミスマッチが起きてしまう。求職者はインドでどのようなキャリアを重ねていくべきか、企業はどれだけ具体的な業務内容と条件を提示するかが、企業と求職者双方にとってのミスマッチを防ぐことになる。
タイ
日本人を対象とした求人では、日系企業のローカル化が進む中で従業員のスキルアップやマインドセットの変化が求められており、人事コンサルタントの営業ポジションが増えている。また、プリント回路基盤(PCB)への投資が増加し、政府も奨励対象事業を追加するなどの対応をしているため、電子部品関連の営業ポジションも増えている。
営業希望者は一定数いるが、BOIの投資奨励を受けている企業も増えているため、社会人経験5年未満の採用が難しい状況になっている。駐在員の後任ポジションの場合、同業界での経験を必須とするなど条件が高く、1年かけても採用が成功していないケースがあるが、20代前半や40代後半以降も含め、年齢層を広げることで優秀な人材が獲得できている。また、営業経験が無くても、ポテンシャルがある場合は前向きに検討することが採用の秘訣である。最近はタイだけでなく周辺国向けの営業ポジションが増えており、英語力も重視されている。
ナショナルスタッフについては、車業界の不調を受けて多くの企業が打開策として新規ビジネスや顧客獲得を図っており、日系だけではなく、タイ系、欧州系顧客の開拓を推進すべく、新規開拓営業が出来る人材を求めている。しかし、タイ系、欧米系の新規開拓に強い人材は、給与が相場よりも高い傾向にあり、給与面の条件が合わず応募承諾が難航する企業も多い。競争力のある給与の提示、コミッションの設定など待遇面の改善が必要である。
ナショナルスタッフの営業人材の転職率は他職種と比較しても依然と高く、業界によっては1年ごとに転職を繰り返すことも多い。 日系企業は3年以上一社で勤めてきた人へ良い印象を感じ、スキルや経験の前に勤続年数の点で見送ってしまうケースが多いが、何を優先するかを重視し、より柔軟な検討をすることが必要である。
ベトナム
物流業界の営業ニーズが高い。ベトナムの物流業界は近年著しい成長を遂げており業界内の競争が激しいことやその成長性、他業界に比べて離職率がやや高いという点が理由として挙げられる。特にナショナルスタッフのジュニアクラスのニーズが高いが、シニアクラスまで広げたとしても採用に苦戦している企業は多い。トランプ関税の影響で先行きが不透明なことから、候補者は物流業界で転職することはリスクが高いと考えている。採用にあたっては待遇の改善が必要となるが、条件改善が難しい場合には自社教育を前提に未経験でも採用したり、語学力のハードルを下げる企業も増えている。
日本人営業ポジションについては、現地化の動きもあり以前よりも減少傾向にある。ベトナムでは入社後に給与を下げられないということが影響しているためか、入社時の給与は数年前から据え置きの企業が多い。業界の経験者に絞ると候補者は限られるため、業界問わず営業経験があり、30歳前後までの若手採用が増えている。
また、業界問わず日系企業以外の顧客を増やしたいと考えている企業が増えてきているため、英語力は以前よりも重視されている印象である。中華系、台湾系、韓国系といった企業の進出が盛んなため、英語力に加え中国語や韓国語話者は市場価値が高まっており、給与も高く出る傾向にある。
インドネシア
求人量としては概ね「微減」で、各社とも積極的に人員数を増やそうとはしていない。特に輸送機関連では新車販売台数が減少を続けていることから増員に積極的な企業は少ない。一時期好調が伝えられた二輪関連にも慎重な姿勢がみられる。また消費財メーカーでも公共、民間ともに需要が減退していることから同様の状況である。一方、新たにビジネスを始める企業からの相談が目立つ。化学素材、ヘルスケアなど先進分野では経験者が少ないことなどから局地的に給与が高騰することがあり、採用時には注意が必要である。
面接までは活発に行なわれるが、採用内定の意思決定には慎重な企業が多く、内定通知の発行までの時間が伸びている印象がある。内定時には、併願企業からの提示条件など候補者の状況を入念に把握した上で条件を決めるべきであるが、過度に時間をかけず他社に先んじる姿勢が採用の要となる。
法人営業マネージャー職の事例となるが、日系大手化学メーカーが新たにインドネシアビジネスを開始するために採用内定した候補者に対し、同じ日系の同業他社から現職の2倍を超える給与を提示するといったことがあった。必要な人材に対しては市場価値に応じて思い切った処遇がなされている。
マレーシア
日本人の採用について突出して高いニーズがある業界は特にないが、ここ半年の特徴的なこととして日本語対応を必要とする一部の商社で日本人営業求人が他の業界よりも少し多い傾向にある。マレーシアは、日本や他国よりも給与水準が少々低いため、すぐに候補者が見つかるわけではないが全く採用ができないということはない。
日本人を必要とするのは、本社への報告業務や対応、顧客先の決裁者が日本人であるからといったケースが主であるが、最近では非日系や非日本人を対象とする営業も増えているため、日本国籍に限らず日本語スピーカーで良いという企業も増えている。
ナショナルスタッフの採用については、半導体関連、特に機器関連や化学品などの会社は活発な印象だが、アップダウンが激しい業界のため、この傾向が長く続くかは不透明。自動車関連などは横ばいである。ナショナルスタッフの営業人材は、固定給与に加えてインセンティブを希望する人、もしくは現状でももらっている場合が多いが、日系企業の多くがインセンティブスキームを持たないため、成果を出した際の報酬を具体的に提示し、魅力付けすることが必要である。
シンガポール
シンガポールでは、営業ポジションで求人数が伸びているのは次の4業界である。DX推進により、SaaSやクラウドサービスの導入が加速している「テクノロジー・IT」。クロスボーダー取引やESG投資の拡大、デジタルバンキングの普及により「金融・フィンテック」。アジアの医療ハブとしての機能が強化されている「ライフサイエンス・医療」。日系ゼネコンや不動産企業の東南アジア展開に加え、シンガポール国内のチャンギ空港T5、地下鉄、病院などのインフラ案件の入札ラッシュとなっている「不動産・建設・インフラ」。営業職にもCRM、データ分析、SNS活用などのデジタルスキルが求められる傾向が強まっている。
金融、IT、ライフサイエンス(製薬・医療機器)などの主要業界においても、日本語話者向けの求人は全体的に少ない。日本語スキルが求められるポジションが存在する場合でも、企業は「就労ビザを必要としない人材」を優先的に採用する傾向が強まっており、主に現地に居住し、すでに就労資格を有している方やシンガポール国籍を持つ日本語話者が対象となる。就労ビザ発給基準の厳格化、人件費の高騰による給与水準の上昇、 離職率の高さと人材の流動性の高さといったことがシンガポールでの採用課題となっており、今後ますますナショナルスタッフの採用、育成、幹部候補としての育成を進める企業が増えると考えられる。
この記事の担当コンサルタント

人材派遣会社を経て2002年にジェイ エイ シー リクルートメントに入社。横浜支店長、A&Fディビジョン部長をはじめ、さまざまなチームのマネージャーを歴任。現在、東京本社 経営企画部 海外進出支援室で マネージャーを務める。