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日系企業のインド進出とビジネス成功のための人材採用
地域別産業の特性とインドの労働市場

India

人口増加を追い風に、経済成長も目覚ましいインドは、日本企業にとっては新たなマーケットとして、また、重要な生産拠点としても大変魅力的な国だ。しかし、国土の広さや宗教、文化、言語などもさまざまであるため、「インド進出」といっても一括りにできないのが実情だ。独特な商習慣があるインドにおいては、現地人材を積極的に採用したうえでのローカライズがビジネスの成功に欠かせない。

増える日系企業の進出

国連人口基金(UNFPA)の「世界人口白書2024」によると、インドは2023年の14億2,860万人より2024年は14億4,170万人と1,310万人増加した。また、2025年2月末のインド政府の発表によると、2024年度(2024年4月~2025年3月)におけるGDPはプラス6.5%の成長と予測している。

14億人を超える人口規模と今後増加が見込まれる中間所得層による現地マーケットの拡大を、多くの日系企業が注視していることは言うまでもない。国際協力銀行(JBIC)の「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告(2024年)」でも、有望な事業展開先国についてインドが2位以下を大きく引き離して1位となっている。

外務省の「海外進出日系企業拠点数調査」最新の結果となる2023年調査によると、インドは4,957拠点となっており、2022年調査の4,901拠点から比較しても確実にその数を増やしている。
JACインドにも、すでにインドに拠点を持つ日系企業からの人材拡充に関する相談や、日本のJAC経由で新たにインドへ進出を検討している企業からの採用に関する相談が増えている。

エリアごとの産業と特色

世界第7位となるインドの国土面積は 328.7 万 ㎢で、日本の国土面積の約8.7倍となる。その広さからビジネス環境もエリアにより大きく異なる。首都デリーがある北部エリア、ムンバイの金融を中心にさまざまな商業が集まる西部エリア、インドのシリコンバレーとも呼ばれているベンガルールがある南部エリア、経済は発展途上にあるものの、タージマハルやガンジス川で有名な東部エリアは東アジアの玄関口として注目を集めている。これら4つのエリアについて詳細を述べる。

インド地域別産業
インド地域別産業 – 1

<北部エリア>
首都デリーがあるこのエリアには、約800社の日系企業が拠点を構える。かつて工業団地を設けて積極的に企業誘致し発展した衛星都市グルグラムもある。周辺地域はインドで最大の自動車産業集積地であり、インドで乗用車のトップシェアを誇るマルチ・スズキの本社もニューデリーにある。

<西部エリア>
以前よりインターナショナルシティ(商業港湾都市)として、商業、金融が盛んなムンバイの人口は1,839万人とインド国内最大である。ムンバイはかつてボンベイと呼ばれ、インド最大の映画産業地として”ボリウッド“もある。また、石油化学関連企業や製造業が集積するグジャラート州はモディ首相がかつて州首相を務め、産業インフラ品質を高めることにより外国直接投資を呼び込み、日系企業の工業団地も存在する。特に半導体業界の誘致も積極的である。

<南部エリア>
ベンガルールとチェンナイを中心とするエリア。「インドのシリコンバレー」と呼ばれるベンガルールはIT産業の集積地である。ベンガルールにはトヨタのインド本社があるが、チェンナイには自動車・自動車部品など製造業が集積しており、ヤマハや日産などの自動車関連企業のインド本社も多い。

<東部エリア>
コルカタが英領インドの首都であった時代、東部エリアはインド最大の工業地帯であった。コルカタは音楽、舞踊、映画、文学などインドの文化の中心都市でもあるが、現在は各地にIT(情報技術)をはじめとする産業団地が建設され、急激な変化を遂げている。アパレルメーカーのマザーハウスがコルカタにあるが、日系企業は極めて少ない。

日本人の現地採用の難しさ

外務省の統計によるとインドの在留邦人数は2024年10月時点で8,102人と、他のアジア諸国に比べても圧倒的に少ない。この在留邦人にはインドの赴任に帯同した家族も含まれているので、日本人のインド就労経験者が非常に少ないことがわかる。
社内でインドに赴任できる人材が不在となった場合、当社にもインド就労経験者のリクエストがあるが、多くの企業からも同様に依頼があるため採用難易度は高い。また、当然ながら求めるスキルを持ち合わせている人材であることを考慮すると、いかにインドでの日本人の現地採用が容易ではないかがわかる。

ローカル人材採用の状況

日本人の現地採用が容易ではないということだけではなく、事業のローカライズを考慮した場合に、ローカル人材の採用もまた重要である。世界第一位の人口を誇るインドであれば、優秀な人材が容易に採用できると期待してしまうところだが、実際にはそうはいかない。

国際労働財団(JILAF)の2023年の調査によると、インドの労働人口は全人口の約41%で、そのうちの約63%が農業従事者となっており、10名以上の組織で勤務している人材は全人口の約2.5%にあたる3,575万人に過ぎない。さらに、そのうちの約1,800万人が政府や国有企業の雇用者で、家族経営や個人商店といったインフォーマルセクターでの勤労者となっている。
ホワイトカラーの職業も現状は少なく、労働雇用省の調査によるとフォーマルな職業訓練を受けている労働者の割合も全体の15%程度(2022年1~3月時点)と低いため、即戦力を必要とする場合、ローカル人材も採用が難しい場合が多い。

また、ローカル人材はエリア間の移動を伴う就業が難しいことが多い。同業界で、同等のスキルをもった人材がいたとしても、エリアごとに言語や食習慣が異なるため、勤務だけでなく日常生活にも支障をきたしてしまうことがある。また、インドは家族・親族との関係性が強いため、離れた土地への就労となった場合、家族と離れることへの配慮が必要となってくる。

ローカル人材の転職事情

<図1>は当社に登録しているローカル人材に30歳までの経験社数を聞いた結果であるが2社以上がほとんどで、3社経験が一番多い。日本では30歳時点では1~2社が平均的であり、インドにおいて転職は日本よりもごく一般的であることがわかる。
また、日本での転職理由は給与だけの待遇ではないことも多いが、インドでは転職理由の多くが「昇給」である。

<図1>

<図2>はインドにおける転職時の給与上昇率を示したものだが、平均上昇率は約23%となる。それに対して、一般的な年次給与の昇給率は8~10%であり、住宅の賃貸契約においいては11カ月毎にヵ月毎に10%ずつ賃貸料を上げるという契約が一般的であるため、転職によって年収を上げるということが当然のように考えられている。

図2
<図2>

採用から継続的な雇用のために

これまでに述べたように、日本人に限らずインドでの人材採用は決して容易ではなく、そのような状況においては、採用した人材をいかに長く雇用できるかということも大変重要である。
インドにおける人材獲得のための各プロセスにおけるポイントを<図3>にまとめる。

当社は年間で250名以上の転職を支援しており、転職理由のほとんどが昇給を目的としているが、給与に関わることも含め、入社後のコミュニケーション不足による退職が多いと感じる。評価面談だけでなく、1on1を頻度高く定期的に実施しているか、社員のキャリアパスを理解し、サポートできているかなどが、優秀人材を長く確保するうえで配慮すべき点である。

優秀なローカル人材の獲得は、インドにおける事業の立ち上げ、拡大において欠かせない要素であることは間違いない。インドは人口増加や高い経済成長率の継続が予測されており、そのマーケットに期待を寄せる企業は多く、当社にも採用について多くの相談が寄せられるが、日本とは全く異なるインドの雇用環境を理解し、自社の立ち位置を正しく理解することが採用成功への第一歩である。

アジア・マーケットレビュー」2025年4月15日号 掲載記事

この記事の担当コンサルタント

小牧 一雄

JAC Recruitment India Managing Director

外資系人材紹介企業でのグローバル人材採用支援部署の立ち上げなどを経て、2014年にジェイ エイ シー リクルートメントに入社。日系企業を中心にグローバル採用を支援する。現在、JAC Recruitment IndiaのManaging Directorを務める。

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