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タイのビザ発行条件の一部変更と採用の現状
人材流動性の高いタイにおける日系企業の組織づくりのヒント

タイ王国

2025年1月からタイのビザ申請手続きが全面的にオンライン化された。申請手続き自体は簡素化されたが、BOIのワークパーミット取得についてはやや難化しており、当社への相談も増えている。その影響でこれまで採用できていた若手に代わる人材をどのように採用し、雇用・育成するかを課題とする日系企業は多い。

ビザ申請手続きのオンライン化

2025年1月より、タイのビザ申請手続きにe-Visaシステムが導入され、全面的にオンライン化された。大まかには、必要書類を揃えてオンラインでアップロードし、ビザが発行されてPDFで送られてきたものを入国管理局で見せる、という流れとなる。これまではパスポートを大使館や総領事館に提出する必要があったが、e-Visaシステムの導入により手続きはオンラインで完結するため、申請者の負担は大幅に軽減された。

ワークパーミット取得条件の変更

一方で、2024年10月のタイ政府からの通達で、BOI(Board of Investment:タイ投資委員会)の投資奨励を受けている企業のワークパーミット取得の条件が一部変更となった。BOIとは、1954年にタイ政府が設立した、海外からタイ国内への投資振興のために投資に対する優遇措置を与える権限を持った政府機関であり、産業奨励の活動を行っている。外国資本の参入が規制されている業種であっても、BOIの認証を受けることで100%外資による進出が可能で、タイへ進出している日系企業、特に製造業のほとんどの企業がBOI企業として認定されている。

BOI企業には様々な恩典があり、ワークパーミット取得の条件についても、従来は給与下限などの規定は無く、主に就労者の職歴が証明できれば申請可能となっていた。しかし、今回の通達により特定職種について、給与や学歴の条件が必須となった。例えば、ソフト開発エンジニアは最低月給が75,000バーツ以上で、その中でも一部専門職については学士以上の学歴が必要とされている。また、職種にかかわらず、基本的な条件として「実務経験年数5年」が付加された。 日系企業の多くがBOI企業であるため、社会人経験1~2年目の人や大卒以外を対象とする求人数は当社でも少なくなっている。

タイの転職事情

タイでは、転職は一般的で20代の転職回数は5回というのが平均的である。これは転職の目的が給与アップやポジション・スキルアップであり、同じ企業に居続けるよりもその上昇スピードが速いためである。かつて日系企業は就職先として人気が高く、人材の獲得を日系企業間で競うほどであったが、現在は地元のタイ企業や中華系企業が転職先として選択肢に入るようになり、優秀なローカル人材はより魅力的な職場を求めて退職してしまう。先に述べたワークパーミット取得条件の変更に伴い、日系企業はこれまで以上に若手タイ人の採用も積極的に行うと考えられるが、現在その採用は容易ではない。

日系企業のローカル人材雇用の課題

日系企業のタイ進出は1960年代を皮切りに、1970年代頃から自動車や家電などの製造業を中心に本格化した。タイ進出から50年を超える日系企業も増えているが、人事や給与の制度が進出当時とほとんど変わっていないという企業も少なくない。これはタイに限らず、海外拠点で多く見られることであるが、現地では営業、生産管理、経理といった業務は専任で置かれても、人事は兼任であったり、日本本社が一括して管理したりということも多い。そうなると、やはり現地の採用や雇用のトレンド把握が後手に回ってしまい、人事制度や給与改定をしたとしても実状とズレを生じやすくなってしまう。

現在、タイは中華系企業が日系企業よりかなり高い給与を提示してくるので、採用において日系企業が競り負けてしまうことが増えてきている。これは決して日系企業の体力(予算)が無いというわけではなく、福利厚生や退職金の比重を比較的大きくした日本的な給与制度が、転職が一般的なタイの採用マーケットでは見劣りしてしまっているということである。あくまでも目先の給与額だけが採用の決め手となるわけではないが、状況を把握することで適宜対応できることもあると思われる。

このような状況下で、採用だけでなく優秀なローカル人材を引き留めるための方法を検討する日系企業の人事コンサルタントのニーズが高まっているようで、当社でもこれら人事コンサルティングの営業の求人が増えているというのが、その実情を物語っている。また、日系企業が人事コンサルティングに求めるのは制度設計だけでなく、日系企業ならではの魅力付けによるエンゲージメント向上の施策といったこともある。その内容としては、企業の文化の理解を促すことであったり、その企業で働き続けることによって得られる具体的なスキルやキャリアパスの提示であったりする。

アジア・マーケットレビュー」2025年6月15日号 掲載記事

この記事の担当コンサルタント

鈴木 沙也佳

JAC Recruitment Thailand Business Development Manager

2016年よりJAC Recruitment Thailandにてタイ人候補者の紹介業務に従事。その後、英国および韓国のJACに勤務し、2025年1月より再びタイにて業務を開始。 これまで延べ600名以上のタイ人採用に携わり、豊富な経験を有している。

井上 優菜

JAC Recruitment Thailand Manager

2021年にJAC Recruitment Thailandへ入社し、日本人・タイ人の採用支援に約5年従事。製造業を中心に、工場長やMDなどハイクラスポジションでの実績を積み、現在は日本人紹介部門のマネージャーとしてタイ市場全般を担う。

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