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成長鈍化により前年比では求人減少も成長分野の人材需要は依然旺盛(2024年7月~9月)

世界11ヵ国で人材紹介事業を展開する株式会社ジェイ エイ シー リクルートメント(代表取締役会長兼社長:田崎ひろみ 以下、JAC)は、JACグループ各社の拠点を展開しているアジア各国での、2024年7月~9月のホワイトカラー人材紹介の市場動向をまとめました。

【ジェイ エイ シー リクルートメント アジア各社の求人数増減一覧】

注)アジア各社の求人数については、アジア各社が意図的に講じた戦略(高額帯年収の求人やスペシャリスト層求人に特化するなど)により、増減する場合もあります。
そのため、アジア各社の求人数の増減は、各社の業績を直接反映するものではありません。

シンガポール:専門人材の需要増加も全体は限定的

  • 求人数前年同期比:60%

求人数前期比(過去3年)

国内情勢

シンガポールの2024年7~9月期の経済成長率は前年同期比1.2%でした。内需と観光業の回復が成長を支えた一方で、輸出の低迷が経済に影響を与えています。インフレ率は3.2%と高止まりしており、政府は引き続き抑制的な金融政策を維持しています。
また、例年のナショナルデーラリー(建国記念日の首相演説)では、スキルアップ支援や失業者支援制度に加えて、少子化対策として育児休暇制度の大幅な拡充が発表されました。新生児と過ごすための有給休暇制度が2025年4月1日から2段階で導入され、合計30週間の休暇が子育て世帯に提供される予定です。

企業の採用動向

7~9月期のシンガポールの求人動向では、金融業界において前期と比較して若干の回復が見られましたが、採用の多くは既存スタッフの退職に伴うリプレイスメントポジションであり、新規採用は引き続き限定的です。香港や中国の情勢不安を受けて活発だったプライベートバンクやファミリーオフィスの移管に伴う採用活動は、現在落ち着いています。金融業界以外では、求人数はほぼ横ばいの状態です。
9月からは就労ビザ保有者の更新にCOMPASS審査基準が適用されるため、企業は人員の海外移転や現地化を加速させており、特に、デジタルトランスフォーメーションやサステナビリティ関連のポジションにおいては、専門知識を持つ人材の需要が高まっています。企業は競争力を維持するために、より高度なスキルセットを持つ候補者を求める傾向が強まっています。さらに、リモートワークの普及に伴い、柔軟な働き方を提供する企業が増えており、これが求職者にとって魅力的な要素となっています。

求職者の動向

就労ビザが必要な求職者については、ビザの審査基準が厳しくなっていることから新規登録者数はやや減少していますが、ビザ取得基準を満たす給与水準で募集されている専門職やマネジメント層の新規登録は見られました。一方、企業からの需要が高いシンガポール国籍保持者、永住権保持者、配偶者ビザ保持者の登録者数は、新規・再登録ともに安定しており、キャリアアップ、給与の向上、ワークライフバランスの改善を目指して転職活動を行っています。就労ビザが不要なこれらの求職者層は、企業からの求人も多く、引き続き売り手市場が続いています。

JAC Recruitment シンガポール法人 社長 ファハド・ファルック

JAC Recruitment シンガポール法人 社長
ファハド・ファルック

マレーシア:柔軟な職場環境提供が採用のカギ

  • 求人数前年同期比:85%

求人数前期比(過去3年)

国内情勢

マレーシア経済は2024年7~9月期のGDP成長率を3.3%とし、その回復力を示しました。この成長は、安定したインフレ率、堅調な労働市場、堅調な金融市場、高い国民貯蓄に支えられたものです。製造業は依然低迷しているものの、回復の兆しが見え始めています。

企業の採用動向

データセンター、デジタルトランスフォーメーション、自動化技術への投資が大きく推進されており、人工知能(AI)、自動化、テクノロジーに関するスキルが強く求められています。企業は従来の学位や資格よりも、需要のある特定のスキルに焦点を移しつつあります。同時に、企業は従業員との良好な関係構築と、従業員の全体的な経験の向上を優先しており、スキルギャップを埋め、労働力を強化するために積極的なスキルアップの取り組みを行っています。

求職者の動向

求職者の優先事項は、引き続き福利厚生、ワークライフバランス、働きやすい職場環境となっています。サステナビリティ経営を打ち出し、企業の社会的責任を雇用慣行に組み込む企業が増えていることからも、その影響がうかがえます。従業員に柔軟な働き方を提供するということで、リモートワークのトレンドが引き続き支持されています。

JAC Recruitmentマレーシア法人 社長 ニック・テイラー

JAC Recruitmentマレーシア法人 社長
ニック・テイラー

タイ:新首相が就任。国内景気は引き続き厳しい状況

  • 求人数前年同期比:78%

求人数前期比(過去3年)

国内情勢

依然として債務超過によるローンの厳格化が消費者の購買行動を鈍化させています。8月の新車販売台数は前年同期比25%減となっており、日系自動車メーカーは各社とも6か月連続でマイナスを記録しています。前首相の解職に伴い、8月に新首相が就任しました。タイバーツの対米ドル為替レートが上昇を続けており、新政権でどのような経済政策を打つのか注目が集まっています。

企業の採用動向

駐在員からの切り替えや、現職社員の退職に伴っての欠員募集はあるものの、自動車・家電業界の落ち込みに連動し、増員などの積極的な採用を控える企業が、業界限らず引き続き多い状況です。そのため、募集要件も業界や職種経験、タイでのマネジメントなどピンポイントになっており、採用の難易度が高いことから、採用活動が長期化している企業が多くなっています。
対して今年の傾向として、ホスピタリティ系や、広告関連など、総じてサービス関連業界の新規進出が増えており、新設に伴っての募集依頼が出てきています。

求職者の動向

タイ国内に限定せず、他国も含めた転職機会を求める求職者が増えています。そのため待遇・福利厚生においても、他国と比較した上で入社先を決定するケースが増えており、今後さらにタイで働くことの魅力付け、福利厚生面の充実が優秀な候補者の獲得には必須となってくるでしょう。 また季節要因として、年末のボーナス支給まで転職を控える候補者が多いため、急ぎで転職を希望する候補者の動きは、年内は今後鈍化すると思われます。

JAC Recruitment タイ法人 社長 ガヴィン・ヘンショー

JAC Recruitment タイ法人 社長
ガヴィン・ヘンショー

インドネシア:エネルギーや建設のインフラ関連での採用が活発化

  • 求人数前年同期比:130%

求人数前期比(過去3年)

国内情勢

8月に発表された2024年4~6月のGDP成長率は5.05%で、3四半期続けて5%台を維持しました。ラマダン明けの個人消費拡大と輸出の伸びが牽引した格好ですが、7~8月の自動車販売台数は2023年比で約89%、2022年比では83%と大幅に落ち込んでおり、また10月の政権交代に伴い政府関連支出が手控えられていることからも日常的には景気の良さは感じられません。
一方、温室効果ガス排出量が世界トップクラスのインドネシアでは再生可能エネルギーへのシフトが急がれており、水力・地熱などの発電プラントの建設計画が目白押しです。9月11日に起工式が行われた都市鉄道(MRT)の伸延や大規模複合施設の建設など、都市インフラ整備のためのプロジェクトとともに日本企業が関与することも多く、成長投資が日本企業のビジネスチャンスであることは間違いありません。

企業の採用動向

上記の国内情勢に伴い、エネルギー、建設関連の求人が目立ちます。不動産開発、設計、施工管理、プロパティマネジメント、アセットマネジメントなど、建設不動産関連の専門職は獲得競争も熾烈で、局地的な給与相場の高騰も見られます。
また食品、通信などの分野では引き続き国内大手企業を中心に活発な採用が行なわれていますが、これまで大きな割合を占めていた製造業では業種や地域によって様相が異なります。
日系顧客依存を脱して事業の現地化を進める企業ではマネジメント級の人材需要が旺盛です。また中には攻勢を強める中国・韓国系企業向けビジネスの経験者を求める企業もあります。
一方、特定の日系顧客だけを対象とするビジネスを行なう企業の業績は決して芳しくなく、求人意欲も低下しています。

求職者の動向

新規登録者数に大きな増減は見られません。登録人材の多くは 市街地中心部に住む20 代後半~30 代前半の若手層で、多くは主に給与・待遇改善を目的に転職活動を行ないます。一方、都市近郊の工業団地エリアでは以前に比べてやや沈静化しています。30 代後半以上の管理職層の人材の動きは若手層に比べてやや慎重で、10月に予定されている政権交代後の変化を睨みながら活動しているようです。
国内在住の日本人求職者の動きに変化は見られませんが、今後日系各社が日本人駐在員の数を減らす方向にあり、インドネシア国内にとどまることを望む人材が転職市場に増えることが予想されます。また、日本に住む人材も「海外転職」に対する関心は高まっています。就労許可要件が厳しくなる国が多い中、比較的基準が緩やかなインドネシアでの転職を望む人材が増える可能性があります。

JAC Recruitment インドネシア法人 社長
佐原 賢治

ベトナム:経済政策の強化と労働市場の動向が示す未来

  • 求人数前年同期比:64%

求人数前期比(過去3年)

国内情勢

ベトナムは、政策と法律の改善、国際協力の強化、公正な社会の構築に努めており、国民の福祉を確保し、国の発展に向けた有利な条件を整えることを優先しています。2024年7月1日から、政令第73号/2024/ND-CPおよび政令第74号/2024/ND-CPが施行され、最低基本給と最低月給が引き上げられました。地域によって最低月給は20万VNDから28万VNDの範囲で増加しています。最低賃金は、すべての雇用主と従業員に対する一定の保険基準として使用されるため、この引き上げは広範な影響を及ぼします。ベトナム政府は、2024年後半の6ヶ月間に2%のVAT(付加価値税)削減を正式に承認し、政令第72号/2024/ND-CPを発行しました。この決定は、経済成長を支援し、外国直接投資(FDI)を引き付け、国内経済を強化するために行われました。この税率の引き下げは、消費を刺激し、経済成長を促進することが期待されています。

企業の採用動向

2024年7~9月期における雇用者数は約5,160万人と推定され、前期に比べて11万4,600人の増加を記録しています。この期間中の労働者の平均収入は月額760万VNDで、前月より17万6,000VNDの増加となっています。特に雇用が増えている業界には、建設、教育、運輸・倉庫、宿泊・飲食サービスがあり、これらの分野では活発な採用が行われています。また、現在の採用需要が高い職種として、営業、IT、会計、製造業などが挙げられます。このような状況において、企業は明確で透明性が高く、魅力的な給与およびボーナス制度を備えた長期的な採用計画を策定し、事業計画と効果的に連携させる必要があります。

求職者の動向

ベトナムの労働市場では、労働者の質の向上に伴い、失業率が低下し、ポジティブな変化が見られます。求職者は、競争力のある給与や福利厚生を最も重視しており、魅力的な報酬パッケージが求職活動の重要な要素となっています。特に、医療保険や退職金制度など、長期的な安定を考慮した福利厚生が求められています。また、キャリア成長の機会や研修制度が整った企業に対する関心も高まっており、スキルアップや専門知識の取得を重視する傾向が強いです。さらに、ワークライフバランスの確保が重視され、柔軟な勤務形態やリモートワークの導入が求められています。企業文化や価値観の一致も求職者にとって重要であり、職場環境が自分の価値観と合致しているかどうかが選考の決め手となることが多いです。最後に、職の安定性も重要視され、将来にわたる雇用の安定を求める傾向があります。このような要素が相まって、求職者はより良い職場環境を求めて積極的に活動しています。

JAC Recruitment ベトナム法人 Regional Director
トゥ・ハー・グエン

韓国:輸出は好調であるものの、成長率は低調。建築や設備投資の低調が要因とも

  • 求人数前年同期比:41%

求人数前期比(過去3年)

国内情勢

輸出の好調は変わりませんが、物価も変わらず高止まりのため内需はそこまで変化はありません。不動産市場の回復に伴って、住宅ローンの急増による家計負債の拡大が進み、韓国の経済成長に大きな影響を及ぼす可能性が出ています。8月の住宅担保ローンの増加幅は前月比で過去最高を記録。特に 「 江南3区」( 瑞草区、 江南区、 松坡区)と言われる高級マンションエリアでは、中古物件の取引価格で過去最高値を更新する物件なども出ています。

企業の採用動向

半導体関連業界の一部の企業は、増員のために積極的な採用活動をしています。どこも人材の取り合いとなっており、条件などもよりシビアに判断されるので、投資としてベースアップや福利厚生の充実などをする企業もでてきています。同時に、ベースアップや福利厚生の充実ができずに、採用力がどんどん低下してきている企業も増えてきており、二極化が進んでいます。そして、企業は研修やメンタルサポートなどを導入することで帰属意識や付加価値を上げ、人材の定着にも積極的に取り組んでいます。

求職者の動向

物価が高止まりで実質賃金が下がってきているため、転職に前向きな候補者は増えてきていますが、条件や労働環境や福利厚生によりシビアになっています。特に、フレックスタイムや在宅勤務などはポピュラーになってきているため、そこに対応できる企業とそうでない企業の二極化がここでも増加しています。常に転職マーケットで継続的に採用してきた企業は、福利厚生向上で成果を出した経験もあるため、条件の改定に積極的ですが、そうでない企業は数年前の条件のままで採用活動を始める傾向が強いように感じられます。

JAC Recruitment 韓国法人 社長 加藤 将司

JAC Recruitment 韓国法人 社長
加藤 将司

インド:採用活動は活発化するものの、長期化傾向に

  • 求人数前年同期比:129%

求人数前期比(過去3年)

国内情勢

インド政府の発表によると実質のGDPの伸び率は、2023年の1~3月期と比べて7.8%のプラス成長となり、引き続き高い経済の成長率を示しています。6月にはインド総選挙にて与党連合の勝利を受け、モディ首相の3期目が始動することとなりますが、今回の総選挙では単独過半数の議席を割り込んでおり、今後の政権の舵取りに苦戦を強いられる可能性があります。また、これまで高い経済成長率を維持してきましたが、若い世代の失業率や高いインフレ率などといった懸念材料が解決されずにあります。

企業の採用動向

引き続きインドの経済成長率は着実に8%に近づいて推移するとみられています。特に製造業や建設業が引き続き高い成長率を示しており、その動きに伴い営業職を中心に製造部門および管理部門の強化など、今後の成長を見込んだ積極採用を実施する企業が増加しています。
一方で、転職市場が活況で転職の可能性が高まることから、より高い年収を得ようとする社員の退職やマネージャークラスの退職により、採用活動を実施せざるを得ない企業も多く存在します。
業務が増加傾向にあるため増員する必要がある中で退職者が続出するといった企業もあり、事業に影響をきたすような企業も散見されます。

求職者の動向

ローカルの採用マーケットは引き続き求人の増加傾向から求職者は活発に転職マーケットに出てきています。転職する際に現年収より20~30%近くの年収アップが見込めるため、常に転職マーケットを見つつ、より条件の高いポジションに転職をしようとする求職者が一定数存在します。
日本人の求職者動向については、引き続き他国も視野に入れた求職者が多く、他国の企業とインド国内の企業が採用でバッティングすることも多いため、複数の内定を同時に獲得する求職者もいます。
選考プロセスにおいては、企業が提供できる仕事内容やキャリアパスを明確にすることで優秀な人材を確保できる傾向にあることから、エージェントとの密なコミュケーションがより重要となっています。

JAC Recruitment インド法人 社長 小牧 一雄

JAC Recruitment インド法人 社長
小牧 一雄

日本:キャリアの可能性を模索する新規登録者が増加

  • 求人数前年同期比:94%

求人数前期比(過去3年)

国内情勢

2024年7~9月期は米国の利下げの動きを受け、為替は期初の1ドル161円から9月には一時期139円まで急騰しました。また、日経平均株価は8月に米ハイテク株の暴落や円高の進行などが重なり、一時急落しました。株価はすぐに回復し9月には再び4万円代まで戻しましたが、米大統領選の動向に加え、先行きが見通しにくい状況であることは変わりません。
急激な円高によって輸入物資の価格はやや落ち着いたものの、エネルギー価格や人件費など企業の収益を圧迫する要素は多いままです。

企業の採用動向

2024 年 8 月の有効求人倍率(パート除く)は 1.27 倍。月ごとに上下はするものの、2022年平均1.31倍、2023年平均1.30倍と安定した状況です。一方、新規求職者数は前年同月比で10%以上減少し、新規求人倍率は2.44倍(前年8月は2.27倍、2022、23年平均は2.20倍)と上昇しました。人材確保を目的に従業員の給与見直し等が進み、夏のボーナスも過去最高額を記録する中で、人々の転職活動意欲が一時的に鈍っている様子がうかがえます。
7~9 月に当社に寄せられた新規求人申込数(日系海外事業要員募集)は、前年に比べて減少しました。大企業ではエネルギー業界や自動車、半導体関連の企業を中心に、脱炭素など成長分野のビジネスに資する人材の募集意欲が衰えない一方、中小企業では国際経済の先行き不透明感などから人材投資が手控えられている傾向が続いています。

求職者の動向

7~9 月の新規求職者(海外勤務経験を有する登録者)数は、前年同期比で 147%と大幅に増加しました。厚労省のデータと大きく矛盾するのは当社の登録人材の属性に強い偏りがあるためですが、日本企業の海外ビジネスには大きな潮目の変化が見られ、それに携わる人材が自社の方針変更や他社の動向などを見て、自身のキャリアを見直す動きは実際に感じられます。ただし、多くの求職者は現勤務先に残るという選択肢を残したまま転職活動を行なっており、たとえ採用内定を手にしたとしても実際に転職するかどうかの決断は慎重です。

JAC Recruitment 海外進出支援室 マネージャー
富田 聡

この記事の担当

JACリサーチ編集部

人材紹介会社ジェイ エイ シー リクルートメントが運営するJACリサーチにて、
業界や職種の動向、社会の課題を、「人材」という視点で解説します。

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