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タイにおける現地採用の現状 駐在経験がある日本人求職者の増加と現地採用のメリット

タイにおける現地採用の現状 駐在経験がある日本人求職者の増加と現地採用のメリット

タイで駐在を経験し日本へ帰任したものの、やはりタイで働きたいという転職相談が増えている。同時にタイに進出している日系企業もタイの商習慣や文化に慣れた即戦力を採用したい傾向が強まっており、両者がWin-Winの関係となる採用事例が増えている。現地採用のメリットと合わせて、タイの転職市場動向をレポートする。

コロナ前以上の求人数

親日国であり、日系企業が東南アジアで一番多く進出するタイ。JACタイは2004 年より、タイに進出の日系企業の求人に対して、タイ人、日本人の現地採用候補者の紹介をしてきた。今回は直近5年の転職市場について述べる。
図1は当社が預かる日本人スタッフを求める求人数の推移である。求人数は、2022 年でコロナ以前とほぼ同水準となり、2023 年には過去5 年で最大となった。コロナ以前はビジネス好調による増員や退職等に伴う欠員補充の理由による募集が多かったが、コロナ後に最も多かった理由は、日本本社から駐在員を派遣することができないため、現地採用を検討したいというものであった。

(図1)

企業が現地採用を検討する理由

タイはビザ取得の関係で外国人社員1 名の雇用のために、4 名のタイ人スタッフを雇用していなくてはいけないという、いわゆる1 対4ルールや、外国人社員1 名につき最低200 万バーツの資本金が必要といったルールもあるため、企業は一般スタッフレベルではなく、少なくともマネジメントレベルを赴任させることがほとんどである。この点から勤務経験の少ない若手社員が海外勤務を希望したとしても、実現は難しい。
一方、即戦力としての経験を持ち、海外でのマネジメントを任せるためタイ駐在を打診したいと思う経験者層の社員は、家族の帯同が難しい、親の介護といった理由で、日本を離れることに難色を示す場合が多い。コロナ禍では、駐在先の医療制度や社会情勢不安等により、家族のみが帰国をするなどの対応を迫られた企業も多くあり、コロナによる制限が落ち着いた今もその当時の影響は大きく、いざ海外で有事に遭遇してしまった場合の家族への影響を考えて駐在を断るケースもあり、駐在できる社員がいないという企業の悩みはコロナによる影響も大きいと言える。また、ここ1~2年の間には、本社側で駐在員候補者が少なく、本社の人員構成上、駐在員を派遣できない状況のため、現地採用に切り替えるという例も多くなっている。

増える現地日本人求職者

一方、当社の転職希望登録者数をみると、コロナによる制限が大幅緩和された2022 年11月以降、タイへ転職を希望する登録者が大幅に増えている(図2)。

(図2)

登録の動機はライフステージによって様々だが、ヒアリングを通じて、ある程度共通したものが、(図3)のように挙げられる。

年代登録理由
20~30代海外希望だが、駐在のチャンスが巡ってこないため、まだ若いうちに経験を積みたい
20~50代配偶者がタイ人で、家族としての拠点をタイに移したい
30~40代海外での子女教育や生活費の割安感に魅力を感じ、今後の選択肢の一つとして検討
40~60代駐在経験のあるタイで、経験・スキルを活かし、タイの社会発展に貢献したい
50代定年まであと数年だが、今からでもチャンスがあれば海外求人にチャレンジしてみたい
(図3)

また、その中で実際にタイ駐在の経験があり、今後タイでの再就職を希望する求職者の主な転職希望理由は以下の通り。

  • 海外では裁量権をより持つことができ、ワクワクするようなチャレンジングな仕事を行うことができていたが、日本帰任後、そのような職責、また環境が無くなってしまったため。
  • タイの住みやすさ、仕事のしやすさが忘れられず、戻りたいと感じている。
  • 異文化環境下で、自身のスキルをもっと伸ばしていきたい。成長速度を高めたい。
  • タイ人の方々に技術・知見等を伝えていきたい。

タイ駐在経験者からはキャリアの面やタイの環境が理由として挙げられている。一方で、タイのビザは学歴によって取れないといった条件も無く、他国と比べてビザの取得が容易なため、タイ以外での海外赴任経験者の登録も多い。

タイ赴任経験者が活躍するポジション

  • タイ拠点の拠点長職
  • Managing Director やGeneral Manager などのハイクラスポジション
  • 製造現場の工場長
  • 近隣国含めた営業統括職
  • CFO 職、など

これらは当社が預かっている求人の一例だが、これまで、これらのハイクラスポジションは駐在員しか担えないポジションとして、会社組織の制度設計をしている企業も多かった。ただ、前述の駐在員不足、またコスト削減目的などから、現地採用に切り替えている企業がかなり増えてきている。そして、実際にタイで勤務した経験を活かして、現地採用で活躍している日本人は少なくない。当地の業界動向に詳しいので、即戦力として活躍しているのはもちろんだが、タイ人の価値観や文化に関心を持っていることが多いので、マネジメントにおいても、異文化背景を理解した適切な指導ができる。また、特にタイ永住を決めた方に多いのが、タイ語をビジネスレベルで使いこなせ、マネジメント業務だけではなく、新規顧客や市場の開拓でもそのスキルと経験を発揮している。

現地採用のメリット

日本人の現地採用のメリットは、大きく次の3点が挙げられる。

異文化理解力、適応力がある

現地採用での就職希望者は、すでにタイでの業務経験があったり、海外勤務経験があったりと、何らかの部分で異文化理解力に長けている方が多いように思われる。また、海外を希望するだけあって、言葉や現地の文化への協調性も兼ね備えている場合が多く、その点で現地タイ人スタッフとも、良い関係を築ける。

組織の安定化

JACタイにはタイ人の求職者の登録も多いが、日系企業に勤めていて、転職を検討するケースの一つに、駐在員の変更により会社の雰囲気が変わり、転職を検討するということがある。経験も知識も豊富で、将来を担ってほしいと思うタイ人スタッフが、このような理由で転職をしてしまうことは多くあり、企業としては損失に繋がりかねない。その点で、長期的に勤務できる現地採用者を経営層に据えることで、組織の安定化を図ることが可能となる。先のメリットにも共通するが、現地の文化や国民性などをわきまえた上でのマネジメントを行えるので、その点でも組織の安定化にプラスに働く。

コスト削減

駐在員と現地採用では大きく人件費が変わってくる。図4は、平均的な給与で比較したものである。

(図4)営業アシスタントマネージャー  ~マネージャークラスの場合(円換算)  
    1 THB = 4.1 円(2024年3月時点)

日本採用

年収800~1,200万円
住宅手当288万円(※1)
海外旅行保険30万円
車(運転手付き)144万円(※2)
日本側社会保険110万円
帰国手当て15万円
学費(子供1人当たり)90万円
年間コスト約1,470~1,880万円
※1:6万THB/月
※2:車+ドライバー3万THB/月

現地採用

年収480~900万円(※3)
住宅手当0万円
海外旅行保険9,6万円(※4)
車(運転手付き)144万円
日本側社会保険0万円
帰国手当て0万円
学費(子供1人当たり)0万円
年間コスト約633~1,060万円
※3:月収8~15万THBの場合(賞与3ヶ月で計算)
※4:2万THBとして計算

現地採用の場合、企業側から日本の社会保証があることは一般的に無い。
そのため、国民年金や健康保険に自己負担で加入する場合もある。

令和4年度

  • 国民年金保険料:年間 199,080円
  • 国民健康保険料:年間 約30,000円~50,000円前後(市町村により異なる)

近年ではニッチで貴重な経験・スキルがあれば、現地採用であっても駐在員同等の待遇を提供する企業も増えてはいるが、駐在員の帰任、新たな駐在員の派遣にかかる費用の削減などを見込むことができ、トータルでの人件費を抑えることもが可能となる。

優秀な人材獲得のために

これまで述べてきたような現在の状況下で、なるべく即戦力となり得る駐在経験者を採用するにあたって、企業はどのような点に気を付けるべきか。現地採用のメリットにコスト削減をあげたが、やはり候補者が気にするのは待遇面で、現地採用であっても待遇面を充実させないと、貴重な経験を持つ人材を確保することは難しい。また、求職者側は、転職先でどこまでキャリアアップの機会があるのか、裁量権があるのか、という点も非常に重視していることが多いので、待遇面と同時に、何ができるのかを明確に提示する必要がある。

アジア・マーケットレビュー」2024年10月15日号 掲載記事

この記事の担当コンサルタント

タイ

石渡 諒

JAC Recruitment タイ Head of sales

広島県出身。大学在学中にタイのAssumption Universityに留学。卒業後、2013年より約10年間、タイの日系金融企業で法人営業に従事、2023年にJAC Recruitment Thailandに入社し、タイチョンブリにてジャパンデスクのシニアマネージャーを経て現在はHead of salesに従事。

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