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JACアジア拠点におけるバックオフィスの日本人現地採用の傾向とその背景
現地法人のローカル化に伴う給与変化

2023年春にコロナによる世界的な海外渡航制限が解除され、一旦は撤退や休業を強いられた日系企業の活動再開に合わせて求人も増えているが、これまでにはなかったローカル人材の登用を見越した体制づくりや各国の情勢に合わせた求人や採用の傾向がみられる。今回は経理・人事・総務などのバックオフィスポジションについて、JACの支社があるアジア7カ国での日本人の現地採用の傾向をレポートする。

※記事内の金額は、いずれも現地採用の日本人が対象

シンガポール

2023年9月から導入された新しい雇用パスの評価システム「COMPASS」により、外国人労働者の採用がより厳しくなっている。「COMPASS」は給与や資格、企業の多様性などの基準に基づいてポイントが付与され、一定のポイント(40ポイント以上)を満たさないとビザが発給されない。また、最低給与基準も満たす必要があるため、2024年については日本人よりローカル人材の採用が多い状況である。経済成長やインフレの影響でローカル人材の給与は大きく上がっている一方で、日本人の人材の給与は元々高いこともあり、上昇はそれほどでもない。
その中でも、法規制の強化に伴い法務職やデジタルマーケティングの拡大に伴ったマーケティング職の給与は上昇傾向にある。

シンガポールのバックオフィス職の年収レンジ(単位:SGD)
経理人事法務情報システムマーケティング総務
管理職90,000
~156,000
90,000
~120,000
90,000
~144,000
100,000
~170,000
90,000
~120,000
80,000
~100,000
一般社員90,000
~156,000
54,000
~82,000
48,000
~80,000
50,000
~ 82,000
48,000
~78,000
48,000
~78,000

インドネシア

インドネシアのバックオフィスはローカル人材への切り替えが進んでおり、日本人の求人は年々減る方向にある。ローカルスタッフは職務別に分かれているが、日本人は経理を主な業務とした管理系全般というポジションが多く、経理以外の職務(総務や法務等)を兼務とする会社が多い。一般社員のポジションで総務の求人はあるが、総務専任ではなく秘書や駐在員サポート的な業務となっている。法務についてはインドネシアの法律に精通したインドネシア人(法学部卒)を雇う傾向にあり、日本人向けの求人は稀である。また、インドネシアの労働法により、人事職は外国人が就けないポジションの一つであり、ローカル人材の採用が必要となる。

インドネシアのバックオフィス職の年収レンジ(単位:IDR)
経理人事法務情報システムマーケティング総務
管理職700,000,000
~1,000,000,000
外国人
就業不可
取り扱い
求人無し
600,000,000
~800,000,000
取り扱い
求人無し
経理部長
との兼務
一般社員400,000,000
~450,000,000
300,000,000
~550,000,000

ベトナム

将来的に現地人材で法人を運用できるように、任期のある駐在員から現地採用の日本人の採用ニーズが増えている。これまで現地採用の給料は、住宅補助などの手当とあわせても日本国内勤務と比べ安かったが、経済成長や物価上昇に合わせて現地採用給与も年々上がってきているので、国内勤務と現地採用勤務の給料差は縮まってきている。また、日本各地の地方銀行の支援も大きく影響して、日本からは多くの中小企業が進出している。それら企業には人手不足のために日本国内から駐在員を派遣できない企業も多く、様々な職種での人材ニーズが増している。

ベトナムのバックオフィス職の決定年収実績(2023年~2024年)(単位:VND)
経理人事法務情報システムマーケティング総務
管理職1,900,000,000取り扱い
求人無し
990,000,000
一般社員1,100,000,000554,000,000990,000,000745,000,000

タイ

タイはビザ取得の関係で外国人社員1 名の雇用のために、4 名のタイ人スタッフを雇用していなくてはいけないという、いわゆる1 対4ルールや、外国人社員1 名につき最低200 万バーツの資本金が必要といったルールがあるため、企業は一般スタッフレベルではなく、少なくともマネジメントレベルを赴任させることがほとんどである。そのため、タイでの日本人バックオフィス求人は経理、または総務やIT部門を含む管理部門を統括するマネジメントポジションがほとんどとなり、総務や法務等単体での求人は他の職種と比較すると少なくなっている。

タイのバックオフィス職の年収レンジ(単位:THB)
経理人事法務情報システムマーケティング総務
管理職1,400,000
~3,000,000
1,100,000
~2,100,000
1,100,000
~1,700,000
1,100,000
~2,200,000
1,200,000
~2,100,000
1,100,000
~1,600,000
一般社員900,000
~1,100,000
840,000
~1,100,000
840,000
~1,100,000
700,000
~1,000,000
700,000
~1,000,000

マレーシア

マレーシアのバックオフィス求人は事業会社だけではなく、企業が自社の業務プロセスを外部事業者に委託するBusiness Process Outsourcing(BPO)企業や、企業自体が事業部やグループ会社の機能を一箇所に集約、業務を標準化・簡素化し、コストダウンや効率化を図るために運営する専門組織であるShared Service Centre(SSC)からの求人が多い。また、経理、情報システム、マーケティングのポジションにおいてはより高い専門性を求められるようになっており、それに伴った給与の上昇も見られる。人事については邦人企業の人事ポジションではなく、SSCにおけるペイロールの関連業務などが多い。

マレーシアのバックオフィス職の年収レンジ(単位:MYR)
経理人事法務情報システムマーケティング総務
管理職13,000
~20,000
12,000
~15,000
取り扱い
求人無し
~12,00010,000
~16,000
12,000
~15,000
一般社員8,000
~13,000
7,000
~11,000
~8,0007,000
~12,000
7,000
~9,000

インド

積極的に営業展開を進める邦人企業からの営業職の採用が増え、同時に人員増加に伴ったバックオフィスの求人も増えている。そのような背景からバックオフィス全般を担う職種として、総務職が売り手市場にあり、年収増加の傾向にある。法令が頻繁に改正され、さらにその解釈が困難であることから、法務にはローカル人材を採用するか、企業が法律事務所を活用しながら、業務を進めるといったことが主である。また、人事職についてはインド特有の人事対応が求められるため、ローカル人材が採用されており、日本人の採用はほとんど無い。経理人材はインドにおいて非常に希少価値が高く、経理は日本との年収差が比較的少ない職種の一つである。

インドのバックオフィス職の年収レンジ(単位:INR)
経理人事法務情報システムマーケティング総務
管理職3,000,000
~4,850,000
ローカル人材
採用の傾向
ローカル人材・
法律事務所の
活用
2,500,000
~3,500,000
営業職の
一機能となる
2,500,000
~4,000,000
一般社員1,900,000
~2,900,000
1,900,000
~2,600,000
1,900,000
~2,500,000

韓国

バックオフィスで給与の高い外国人を採用するメリットがあるところは日系企業含めてもほとんどなく、バックオフィスの日本人採用を目的とした求人はマーケティングを除いてほぼ無い状況。外国人(E-7ビザ)には基本的に韓国の一人当たりのGNI(国民総所得)の80%以上の給料を払うが、GNIも年々上昇している。韓国も同様に法令が頻繁に改正されるなどローカル人材でないと対応が難しい部分が多く、またローカル人材の雇用を守るため外国人の雇用にあたって様々な条件があるため、韓国では日本人を含め外国人をバックオフィスで雇用することはほとんど無い。

以上が、JACが展開するアジア7カ国のバックオフィス職種の雇用状況となるが、ローカル人材の雇用が進んでいる国や法律の規制がある国では、人事や法務といったポジションはローカル人材の採用で対応していることがわかる。その中で、日本人の現地採用は、日本から派遣される駐在員の代替要員としての役割だけでなく、ローカル化を進める企業において言語や文化を理解したスムーズなコミュニケーションを通して、ローカル人材と日本本社との橋渡しをするより重要な役割を担うようになっている。あらゆる部門をサポートするバックオフィスの採用は、企業が新たな海外進出や事業拡大時に初めに相談を受けるポジションだが、地域性だけでなく企業としてどのような組織づくりをしていくかということにも大きく影響すると考える。

アジア・マーケットレビュー」2024年12月15日号 掲載記事

この記事の担当

JACリサーチ編集部

人材紹介会社ジェイ エイ シー リクルートメントが運営するJACリサーチにて、
業界や職種の動向、社会の課題を、「人材」という視点で解説します。

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