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マレーシアで増えるグローバル企業のBPOとSSC求人
製造業に加え、成長事業の活況が優秀人材の獲得競争の要因に

若年層の増加と中間層の拡大による堅調な内需市場と、政府による積極的な外資企業の誘致や電気・電子製品の輸出による外需の拡大により、マレーシアは順調な経済成長を遂げている。近年では、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)業界におけるその成長と発展やSSC(シェアードサービスセンター)の設立などで、世界中の企業から大きな注目を集めているマレーシア。市場成長に伴って優秀人材の需要が高まっている。
JACマレーシアは1994年に設立し、日系人材企業では最も長くマレーシアで活動している。設立当初より製造業の転職支援を得意としているが、近年IT/サービス/医療・ライフサイエンスなどに加えBPOやSSCといった分野の求人も増えており、これまで以上に幅広い職種の転職を支援している。日本人の移住先としても人気のマレーシアにおける転職事情についてレポートする。

成長するBPO・SSC事業

BPOとはBusiness Process Outsourcing(ビジネス プロセス アウトソーシング)の略称で、企業が自社の業務プロセスを外部事業者に委託すること。「BPO企業」とは、それを受託する側の事業者を指す。BPOサービスは、顧客サービス、人事、財務会計、IT管理、デジタルマーケティングなど、企業運営の多岐にわたる分野を請け負う。従来は、企業のコア業務ではない、あるいはそのノウハウがないという理由からBPOに委託するケースが多かったが、現在はコストカットや業務効率化の観点からBPOに委託するケースがかなり増えている。
マレーシアはコスト面のみならず、言語(英語が共通語)面での優位性や政治・天災リスクが低いこと、また政府が積極的にこういった業態のマレーシア進出を推奨・優遇していることなどから、BPO企業にとって拠点を設立するメリットが大きく、拠点の設立が増えているといえる。
マレーシアに進出しているBPOの多くは外資系で、特に多言語対応が必要な有名グローバル企業(オンラインサイト運営会社やSNS運営会社、オンライン検索サイト等)のコールセンター業務を受託することも多く、日本マーケットや日本人を雇用する企業からのリクエストに応えるための日本人求人も増えている。

SSCとはShared Service Centre(シェアード サービス センター)の略称。企業が外部に業務を委託するBPOサービスに対して、企業自体が事業部やグループ会社の機能を一箇所に集約、業務を標準化・簡素化し、コストカットや効率化を図るために運営する専門組織を指す。マレーシアは英語が堪能な人材が多いことに加え、APAC本社が多く置かれるシンガポールと隣接していることでビジネスを円滑に進めることができ、さらに、アジアの先進国や新興国と比較すると人件費やオフィス賃料が安価で、事業コストを抑えることができるため、2000年代初頭から多くの欧米企業がマレーシアでSSCを設立している。経理や人事のバックオフィス業務を集約することが多いが、コロナ禍で直接企業へ訪問する営業が少なくなった影響で、インサイドセールスの機能を持つSSCも増えてきている。SSCは世界各地に法人や拠点を持つ外資系グローバル企業で採用されるケースが多く、それらの企業の多くが、日本マーケットを対象としたサービスを提供していることから、BPOと同様に日本人や日本語スピーカーの需要が高まっている。

増えるBPO・SSC求人

前述の通り、日本マーケットや日本に拠点を持つグローバル企業から日本人や日本語スピーカーのBPO・SSC求人を出しているが、これらの求人はコロナ禍で製造業の求人が減った際にも増え続けていた。特にコロナ禍においては、オンラインサービスを利用することが多くなったため、その業務に関わる職種の需要が増えた。BPOにおいては現在もカスタマーサポートやテクニカルサポート職の需要が高い状況にある。また、バックオフィスの拠点をマレーシアに構える外資系企業が多くあり、SSCでは、経理系、IT系、人事系、受発注関連、購買などの求人が中心となっている。経理(売掛/買掛)、人事(採用/給与計算)は2~5年の経験者が求められており、その他、数としては多くないが、法務関連/与信管理/PR・マーケティング/ビジネスアナリストなど専門的な知識や5年以上の経験が必要とされる職種の求人が出ることもある。

製造業での即戦力人材ニーズ

マレーシア統計局の発表によると2024年第3四半期(7~9月)の実質国内総生産(GDP)の見込み値が前年比5.3%増で、産業別では製造業が5.7%増の見込みとなっており、製造業が引き続きマレーシアの経済成長に大きな役割を果たしていることがわかる。
コロナ禍では、駐在員の引き上げ、事業の縮小などといった理由で当社でも取り扱う求人数は減ったが、コロナ収束後は製造業を中心に一気に求人数は増えている。特に、電気・電子・半導体、化学、機械系といった、マレーシアが重要な生産拠点となっている業界の求人が増えており、職種としては営業や工場管理などの求人が多い。マレーシアの工場は大量生産から少数高付加価値型商品の生産と多様で、かつマレーシアの人口は日本の人口の1/4と決して多くないため、人手不足を補うために高度な工場運営が必要とされる。そのため、工場管理に関わる求人にはその職種にマッチした経験とスキルを持ち合わせた即戦力が求められている。

APAC本社がマレーシアへ

税制優遇をはじめとした積極的な外資企業の誘致もあり、多くの企業がAPAC本社をシンガポールに構えているが、人件費や賃料の高騰、さらに外国人に対するビザ発行要件が年々厳しくなっている中で、APAC本社をシンガポールから他国へ移転する企業が増えている。マレーシアはシンガポール同様に積極的な外資の誘致を行っており、マレーシアに地域統括会社を置く企業に対して税制優遇措置を与える「グローバルサービス・ハブ」制度を2024年予算案に盛り込んでいる。また、先にも述べたように言語面の優位性や、財務税務の健全性が高いマレーシアはAPAC本社、もしくは一部機能の移転先として第一候補先となっており、当社にも移転に伴う相談が業界問わず増えている。政府の積極的な働きかけもあり、IT、ライフサイエンス、Fintechといった製造業以外の企業の進出も特徴的である。

上がる人材獲得条件

コロナ禍以降、日系企業の駐在員は国を問わず減る傾向にあるが、それに伴い現地採用の件数は増えている。駐在員には駐在任期があるのに対して、現地採用にはその制限がないため、企業としては常に後任を検討する必要はなく、現地でキャリアを積みたいと考える求職者にとってもメリットとなっている。
これまでに述べたように、経済成長著しいマレーシアでは、業界、業種、日系、外資を問わず多様な求人がある。職種によっては高度なスキルや経験を求められており、その条件に合致する求職者は少ないため、日系企業だけでなく外資系企業とも取り合いとなっている。現地採用の条件では欧米の外資系企業に人材を獲り負けてしまう日系企業については、現地採用で選考を進めた後、給与条件をあげるために最終的に本社採用とするなどの例も出てきている。
現地化が進んだ日系企業のローカル人材の採用も増えているが、マレーシアの給与水準が上がっており、住居やその他の手当といった処遇を除くと日本人の現地採用と給与面では大きな差が無いレベルとなることも少なくない。

増える家族移住

最近の当社の登録者におけるトレンドとしては、家族移住の増加である。マレーシアは外資系、ローカル系と合わせるとインターナショナルスクールの数も多く、学費も50~200万円と幅広くあるが、欧米でインターナショナルスクールに入学するよりも安価であるため、近年子供の教育を目的とした家族移住が増えているといった背景がある。ただし、本人の言語能力やこれまでの職歴が求人に合致しないこともあり、マレーシアで就労ビザを取得できずに家族移住が叶わない場合もある。

就労ビザ取得プロセスの変更

2023年6月より、ESD(Expatriate Services Division)のワンストップポータル「Xpats Gateway」にてほぼ全ての業界が就労パスの申請が可能になった。企業の所轄官庁のサポートレター取得も就労パス申請の一部として取り扱われており、全体のプロセスが見直されたことで、手続き時間が短縮された。事業内容、資本金等の会社登記情報をもとに企業はTier1~5にステージが設定され、Tier1~2は審査機関での優遇などもある。
就労ビザそのものの取得はかなり迅速ではあるものの、新しいプロセスがあまり認知されておらず、手続きに手間取り、周知していない代行業者も少なくないため、結果的に予想以上の時間がかかることもあるので注意が必要である。

マレーシアは現在、政府の積極的な働きかけもあり、世界中の注目を集めている。30年間、マレーシアの地で転職をサポートしてきたJACマレーシアであるが、企業の成長を大きく左右するのが人材であるということを実感する昨今である。

アジア・マーケットレビュー」2024年11月15日号 掲載記事

この記事の担当コンサルタント

マレーシア

桐生 純子

JAC Recruitmentマレーシア法人 Associate Director

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